「図書館制度・経営論」2025・2026年設題
図書館の組織を5点挙げ、それぞれについて簡潔明瞭に述べた後、主題司書(サブジェクト・ライブラリアン)の育成のためにはどのような図書館組織を構築することが望ましいか、貴方自身の考え方を含め記してください。
「図書館制度・経営論」合格レポート
※レポートの丸写しは禁止されています。あくまでも参考に留めてください。
1.はじめに
図書館の組織は、図書館の理念に基づく目的を達成するための仕組みであり、図書館運営の在り方を決める土台となるものである。本レポートでは、図書館の組織の種類について説明したあと、主題司書育成のための図書館組織構築について論じる。
2.図書館の組織
本教科テキストでは、図書館の組織の形態として以下の5種類が挙げられている。ここでは、そのそれぞれについて簡単に説明する。
①職能別組織
資料の収集・整理・保存・提供という図書館の「働き」の面から部門化した組織である。総務部門、収集部門、整理部門、閲覧部門等に分けられる。管理コストが低くて管理統制が取りやすくいというメリットがある一方で、専門人材の育成が難しく利用者サービスが浅くなる点がデメリットである。日本の図書館組織としては最も多い。
②主題別組織
図書資料の主題別に部門化した組織である。自然科学部門、社会科学部門、人文科学部門等に分けられる。資料の形態にかかわらず、主題別に資料の選定・収書・整理・閲覧・貸出・レファレンス業務を一元的に処理する。主題専門家としての司書の育成がしやすく、高度なサービスが提供できる点がメリットであるが、管理コストが多くかかる点がデメリットとなる。閲覧部門のみにこうした組織を取り入れる主題別閲覧制度を導入する図書館もある。
③利用者別組織
利用者別に部門化した組織である。大学図書館であれば学部学生、大学院生、教員等に分けたり、公共図書館であれば児童・ヤングアダルト・成人・障害者等に分けたりすることがある。閲覧制度のみにこうした組織を取り入れる図書館もある。
④資料別組織
資料形態別に部門化した組織である。逐次刊行物部門、参考図書部門、地域資料部門、視聴覚資料部門などに分けられる。閲覧制度のみにこうした組織を取り入れる図書館もある。
⑤混合組織
①~④の組織を複合的に組み合わせた組織である。職能別組織を中心にしながら、一部の資料形態について独立した部門を持っていたり、前述のとおり閲覧部門のみを主題別や利用者別、資料別に区分するといった形がある。日本の図書館では多かれ少なかれ混合組織をとっていることが多い。
3.主題司書の育成のための組織構築
専門的知識を持って利用者を指導できる主題司書を育成するためには、主題別組織を採用し、各主題について担当の司書が資料の選定、整理、提供までを一元的に行うことが望ましい。しかし、コストの観点から主題別組織を採用することが難しい場合には、少なくとも主題別閲覧制度を導入し、レファレンス業務にあたって各主題での経験を積むことができる組織づくりをする必要がある。この場合にも、各主題の資料の選書や整理時の分類の付与など専門的な知識が必要な業務について、主題別の閲覧部門が積極的にかかわることで、主題を担当する司書が利用者への情報提供に必要なコレクションを構築し、収集した資料に習熟する仕組みを実現できると思う。
また、適材適所の原則に従い、各職員の適性に応じた職員配置を行うことも重要だ。頻繁な人事異動は避け、付加価値5年の法則に従って、長期的な経験を積むことができるよう配慮することが望ましい。経験の長い司書から短い司書へと知識やノウハウを継承していくことができるよう、人間関係の良好な組織風土を形成することも欠かせない。職員の間で図書館の理念と目的、利用者中心の考え方を共有し、図書館の活動計画にもそれを十分に反映することで、職員のチーム意識を高めることができるだろう。職員同士が競い合うのではなく協力することを促す評価制度の適切な運用も必要となる。
研修等による職員の能力開発も重要である。各主題の調査法や商用データベースの使い方等について内部研修を開催したり、図書館団体等が実施する集合研修に参加したりすることはもちろん、司書の自己啓発を支援することも重要だ。たとえば、勤務時間内で各職員の担当する主題に関する大学の講義の聴講を認めたり、関連する資格の取得を支援したりすることが考えられる。図書館界の横のつながりを活用し、各館の司書が連携して情報交換や勉強会を行うことも図書館界全体での主題司書の育成につながるだろう。
4.おわりに
専門職としての主題司書の育成は、図書館に情報センターとしての役割が求められる中で、今後ますます重要となっていくだろう。しかし、日本の現状では、多くの司書が派遣や非正規労働者として契約に縛られる形で働いており、専門的知識を発揮し、長期の経験を積むことが難しくなっている。図書館において利用者中心のサービスを十分に提供することができるよう、図書館を設置する大学や国・自治体、指定管理者となる団体等が十分に図書館の役割を理解し、主題司書の育成が可能な図書館運営がなされることを期待している。
参考文献
進藤達郎「図書館員のスキルアップとサブジェクト・ライブラリアン:大学図書館に とっての専門性」『情報の科学と技術』55巻9号, 2005, pp.394-397
田中あずさ『サブジェクト・ライブラリアン : 海の向こうアメリカの学術図書館の仕事』 笠間書院, 2017.12.
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